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第484号 1998(H10).05発行

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ナスの促成栽培におけるセル成型苗直接定植技術
-肥効調節型肥料を利用した初期生育調節法-

Aichi Prefectural Agricultural Experiment Station
弥富農業技術センター栽培研究室
技師 田中 哲司

Introduction

 近年,果菜類のセル成型接ぎ木苗は,苗の効率的大量生産方式として急速に利用が増加している。ナスの場合,愛知県では,業者からの購入や生産者による共同育苗によりセル成型苗を利用している。セル成型トレイで育苗された本葉が2~3枚程度の苗を定植すると,初期の生育が旺盛になりやすい。このため,一旦ポリポットに鉢上げして従来のような苗姿(本葉7~8枚)に仕上げて定植されるのが一般的である。

 当センターでは,ナスの促成栽培におけるセル成型苗の利用技術について検討してきたが,ここで得られたセル成型苗の利活用技術,特に肥効調節型肥料を利用した初期生育調節技術について述べてみたい。

2.セル成型苗直接定植技術の特徴

 ナスのセル成型接ぎ木苗は,前述したとおり,セル成型トレイで育苗した苗をポリポットに鉢上げ(以下,二次育苗という)して約20日後に定植される。

 しかし,鉢上げせずに直接ほ場に定植できれば,
①二次育苗にかかる労力,資材費が節減できる。
②集約的なセル成型トレイで育苗されているため1トレイ当たりの重さも軽く,また一度に大量の苗の移動が可能で輸送性に優れる。
③定植時に植え穴が小さくて良く,苗の配布も容易であることから定植作業が非常に省力的となる。
④従来より小苗であるため,葉数が少なく蒸散量も少ないため,根鉢付近の水分さえ保てれば活着が良好となる。
 などの利点が上げられる。

 一方,
①根の活力が高いため,初期の生育が旺盛になりやすい。
②鉢上げされた苗に比べると,生育ステージの早い苗であるため,定植してから第1果を収穫するまでに日数を要し(表1),従来と同じ時期に収穫を開始するためには,本ぽへの定植時期を20日程度前進させる必要がある。
 など,解決すべき問題点も少なくない。

3.初期の生育調節法

 セル成型苗を直接ほ場に定植するためには,基肥量や,かん水量を減らすことによって初期の生育を調節している。しかし,基肥量を減らすことは,追肥回数を増加させることにつながるため,肥効調節型肥料を利用し,追肥回数を増やすことなく初期の生育が調節できるかについて検討を行った。

 本試験では,初期溶出抑制タイプ肥効調節型肥料(スーパーロング424,220日)をベースに初期生育調節用として40日タイプの肥効調節型肥料(ロング424,40日)を組み合わせ,初期肥料の施用量の違いが初期生育に及ぼす影響について検討した。

(1) Composition of the test area

 試験区は,いずれの区も初期溶出抑制タイプ肥効調節型肥料を成分量で窒素4kg/a,りん酸3.4kg/a,加里4.0kg/a施用し,初期生育調節用の肥効調節型肥料は,窒素成分でそれぞれ1.0kg/a,0.5kg/a,0.0kg/a(初期肥料無施用)の3区設けた。

 穂木品種「千両」,台木品種「アシスト」を6月14日には種,72穴のセル成型トレイにて育苗し,7月29日にセル成型接ぎ木苗を本ぽに直接定植した。なお,基肥は,7月26日に施用した。

(2)結果

 施肥後35日間は,0.0kg/a区で窒素の溶出がほとんどなく,1.0kg/a区では,0.5kg/a区のほぼ2倍の溶出が認められた。しかし,これ以降に窒素の溶出に差は認められず,初期調節用の肥効調節型肥料は,施肥後35日でほぼ溶出したと考えられる。また,いずれの区も3月1日には,窒素施用量のほとんどが溶出した(図1)。

 初期肥料が多いほど,主枝の伸長は早く,1.0kg/a区と0.0kg/a区では,平均摘芯日で13日の差があった(表2)。

 分校下茎径は,9月10日頃まで1.0kg/a区の肥大が早く,0.0kg/a区では遅かった。しかし,9月15日以降の差はほとんど認められなかった(図2)。

 収量は,1.0kg/a区が若干多かったが,明確な差はなかった。上物率は,1.0kg/a区で38%とわずかに低かったが,これは,収穫初期に果形の乱れが発生したことが影響した(表3)。

(3)考察

 初期溶出抑制タイプ肥効調節型肥料は,約220日でほぼ全量溶出している。本試験では,定植を7月下旬と慣行栽培(図3)より約1ヶ月半早く行ったため,2月末までにほぼ全量の溶出が認められた。しかし,6月下旬まで収穫するため,これ以降は追肥を施用する必要がある。

 初期肥料を多く施用すると,分枝下茎径は初期に急速に肥大する。分枝下茎径からみた初期生育で判断すると,初期肥料の施用量を調節することによって初期の生育制御は可能となる。

4.セル成型苗直接定植のための留意点

 これまで,肥効調節型肥料を利用した初期生育調節技術を述べてきたが,ここでセル成型苗を直接定植するための留意点について簡単に触れてみたい。

 セル成型苗の育苗日数は,セル成型トレイの大きさ,1穴当たりの土容量,培養土,育苗環境により差が大きくなるので具体的な日数を示すことは難しいが,目安としては,苗をトレイから抜き取った場合,根鉢が崩れない程度の根鉢形成初期が良い。根が老化した苗を定植すると,活着不良や生育の停滞につながるため利用は避ける。

 これまで一般的に行われている二次育苗は,初期の生育を安定させるために有効な手段であるが,は種日を同一にした場合,二次育苗の有無による収量性を比較したところ,二次育苗をせずに本ぽに定植した方が良い。一方,定植日を同一にした場合では,生育ステージが進んでいる分,二次育苗した方が,収量性は高くなる。

 定植時期は,年内収量の確保といった意味から早い方が良いが,7月下旬に定植するとハウス内室温が高く,1番花が落花してしまうため8月上旬が定植の前進限界であると思われる(表4)。ナスの促成栽培における増収のポイントは,いかに早期に樹形を整えるかにある。このことから,セル成型苗を直接本ぽに定植する栽培では,年内に摘芯が可能な8月下旬までの定植が望ましい。また,定植の際には,活着を順調にさせるため,遮光ネットや敷わらなどによる高温乾燥対策が必要である。

Summary

 セル成型苗を直接定植するためには,初期の生育調節技術が不可欠である。今回述べた初期肥料の施用量を変えることによる生育調節法はあくまでも1つの手段であって完全なものではない。これまでに行われてきた主枝の誘引角度を変える方法,主枝の仕立て本数による調節法,台木品種の生育特性を生かした調節法などを組み合わせて初期生育の調節を図る必要がある。

 また,今回例示した施肥量はあくまでも当センターでの結果であって,ほ場によって土壌条件が著しく異なる。そのため,根の活力が高く初期生育が旺盛になりやすいセル成型苗を直接定植することを勘案し,ほ場条件に応じた施肥設計を組むことが大切となる。

 初期生育の制御が可能となれば,二次育苗せずにセル成型苗を直接本ぽに定植できる。初期溶出抑制タイプ肥効調節型肥料を上手く活用し,省力的な栽培を期待したい。

 

 

ダイレクト・セル苗を利用した抑制トマト栽培(その2)

千葉県山武郡横芝町
若梅 健司

 平成9年11月号で育苗までを述べたが,今回は定植及びその後の管理について述べてみたいと思う。

 ダイレクト・セル苗は若苗強勢であるので,今までの考え方を若干変える必要がある。

1 施肥

 まず元肥施用量は1~2割減ずるか,緩効性及びロング系の肥料の比率を多くし,初期暴走しない様に配慮する。施肥設計は出来得れば,土壌診断をして,土壌の肥料含有量を把握してから立てる。pH6.3~6.8,EC0.2~0.4,石灰150~250,苦土25~35,加里15~25,燐酸20~40,位であれば標準の肥料設計でよい。それより少ない時は増量,多い時は控える。特に加里過剰には気を付けたい。私達の様に30年以上も連作をしていると,苦土,燐酸,加里が多くなり特に加里に於いては障害及び拮抗作用による苦土欠乏症等も心配される。私の場合新しい圃場と連作の圃場とでは,肥料設計が異なる(図1,表1)。

 そんな関係から肥料メーカーと相談し燐酸加里の少ない肥料を作って欲しいと,またトマトの特別な生理障害の尻腐れ,芯腐れにカルシウムを含んだ肥料,硝酸石灰をコーティング,CDUと配合したトマト専用ロングショウカルを作ってもらった。また追肥用として私の果菜類の追肥緩効性理論とつなぎ肥を合せた,CDU+燐硝安加里のダブルパワーが出来,これがトマトの追肥に最適で,まさにダブルパワーである。当初はトマト追肥用としてデビューした筈であるが他の作物また元肥用としても当地ではかなり使用されている。

2 定植準備

 定植までに期間があれば太陽熱消毒をする。その時のポイントは,土に充分水分を含ませてからマルチをした方が地温が上り易く効果がある様である。一定期間が過ぎたらマルチを除去し頭上潅水等で充分に潅水する(3~5時間)。地下に水と養分を貯金する。土壌条件により異なるがトラクタ一等で耕転が出来る状態となったら,元肥を施しなるべく深く耕す。

 私の場合表作のメロンの時溝施用により半熟ワラを反当り2t位施す(圃場1反歩に水田2~3反歩分のワラを入れる)。また,同時に完熟堆肥2t位全面に施す。これが恰度トマトの生育時に効果が出てくる。抑制トマトでは堆肥は施さない。トラクター耕をしたらなるべく早くベッドを作る。この時期7月中~8月上旬高温期であるので土壌が乾燥して活着が悪るくなる。

 普通トマトは平畦に限ると言われているが,当地方では平坦地で大雨等で冠水する事も有るのである程度高畦にする。トマトはベッド上に冠水すると短時間でも根に障害が出てくる。

3 定植

 ベッドが出来たらなるべく早く乾かない内に定植をする。苗は本葉4~4.5葉期でやゝ根鉢気味で,トレイから容易に抜けるものである。花卉及葉物のセル苗と異なり若干老化気味であること,これが定植後の活着もよく,若苗強勢の裏目の暴走(異常茎)奇形果,乱形果,チャック果等の発生を抑えることが出来る。

 前回述べた与作「いちご専用培土」は今度「新果菜類専用培土」と名称も変ったが,これらを満すことの出来る培土である(写真1)。

 定植本数は3.3㎡当り7本前後を目安とする。何時も空洞気味の方は株間を広げ,逆に裂果気味の方は狭くする様に指導している。空洞と裂果は相反する現象であるのでこの辺のコントロールが必要である。

 定植作業はトレイ苗であるので,トレイ毎圃場に持込み直接定植をする。植穴を掘るのも簡単,鉢の片付けもないので今までの10分の1程度の労力ですむ。定植後は通常であれば土中に水分と養分が貯金してあるので潅水の必要はない。あまりにも乾き萎えるようであれば,葉水程度の潅水をする(頭上潅水で5~10分程度)。活着をしたら3段開花までは原則としては潅水追肥はしない。

4 管理

 活着後生育に合せて遅れないよう芽かきをする。しかし,あまり草勢が強い時は芽かきを遅らせて草勢コントロールをする。

○ホルモン処理

 高温時であるのでトマトトーン150~200倍で処理し前半は4日起き,後半は100~120倍5~6日置き,3段花房頃から空洞果防止の目的でジベレリン5~7ppm加用する。

○追肥潅水

 通常は3段開花までは追肥潅水はしないが,品種,草勢によっては2段最盛期頃より行なう場合もある。この場合遅れたかなと思ったらダブルパワーで反当り30~40kg,正常であればCDUで40kg位施す。

 私が追肥緩効性理論を唱えた事で今まで追肥は追う肥であるので速効性に限ると言われていたが,近年当地方,又,サカタのタネ,タキイ種苗,千葉,茨城で普及している。長期間連続して収穫する果菜類は栄養生長と生殖生長が同居している関係からシーズンを通してバランスの取れた草勢を保つことである。肥料の吸収に波があれば,着果,空洞,裂果,奇形,スタミナに影響が出て高品質多収とはならない。

 卜マ卜は他の作物と異なり,多収であればある程品質(A級率)が良い。茎の太さが最初から最後まで同じ太さ(1.5cm前後)で育てる事で,途中で細い所が出来てはならない。私は後半程太くなるよう仕立てる,それには緩効性肥料の追肥に限る。

○追肥潅水の方法

 ベッドの中央に潅水パイプを配置,その上に除草,地温抑制の目的で敷藁をする,この部分にエスカ有機200kgを施し,その後はCDU又はダブルパワーを施す。潅水をする事により徐々に吸収されて行く。これが有機潅水追肥である。

5 病害虫防除

 防除は予防に重点をおき,初期はこれから発生を予測される病気を中心に先手々々と薬剤散布をする。そうする事で後半(摘芯後)はあまり散布をしなくともよいようである。

6 整枝方法

 直立Uターン整枝と,復条Uターン整枝がある(図2)。

 直立Uターンは畦巾を広くし株間を狭くして植付け,150cm位で捻枝Uターンさせて3~4段収穫する。

 複条Uターンはアーチ条の支柱を使い,交差させ反対方向に誘引する。交差した部分は混み合うが,この位置は光線が充分当り乾くので環境もよい。他の一般的な誘引では後半ハウス内は暗くなり湿度も多く,光合成が悪るく,空洞果の発生,疫病,灰色カビ病,かいよう病等の発生原因となるが,Uターン方式はその必要は少ない。

7 ぶっ倒し栽培

 今から30年程前に考案した方法で,後半這栽培に切り替える方法である。無加温の抑制栽培では当地方では11月いっぱいが限度であるので,這栽培にする事で1月中旬まで出荷が可能となる。もともとトマトは匍匐性の作物であるので原点に返したにすぎない。11月上中旬に葉を上から4~5枚残して摘葉して倒す。敷藁をしてあるので果実は直接土に接することなく環境がよい。後半は日中蓄熱した地温を利用して着色させる。

 その作業も省力的な方法を考え,複条Uターンは支柱を浮し一方の針金を解除することで一瞬にして倒れる。50mの畦を10~15秒で倒せる。殆んどロスが出ない。しかし直立U ターンは1本毎に倒す。Uターンしであるので果梗が下向きになっているので果実が果梗から離れず作業性がよい。

 12月に入ったらトンネル等で夜間保温してやる。日中蓄熱された地温が夜間トンネル内のトマトを保護して凍霜害から守る。始めてこの方法を耳にした方は,そんなことをしたトマトは品質が悪るく市場性がないと言われるかも知れないが,そのまゝ直立した物よりずっと品質がよくA級率も高く収量も多くなる。私の場合は全収量の3分の1以上は倒してからである。この時期高値のくる事が多くこの栽培方法は有利と自負している。当地方では90%以上がこの「ぶっ倒し栽培」である。今では東北の一部,茨城,千葉で普及している。

8 品種比較試験及びその他の試験

 私は30年来,トマト,メロンについて収量調査をしている。主に品種比較である。1シーズンで40回以上調査する。トマトは長期間収穫するので全収量通して調査しないと解らない。等級,階級そして病害虫等生育状況を調べ,そして反当り換算でLで何ケース,Mで何ケースと言うように表し次期の品種選びの資料とする(図3)。

 その他肥料,資材等の試験もしている。

9 最後に

 今回は定植後の管理を述べたが,紙面の都合で説明不足の点が多いが,ダイレクト・セル苗を利用したトマト栽培は収穫後木を抜き取る。何本かの直根が走っており抜き取るのが大変であるが,それだけ後半まで草勢が強く品質収量共良い(写真2)。

 ある学者は太い根は水分を,細い根は養分をと言ったがこれは実際トマトに聞いてみなければ解らないと思う。しかし,何らかの役割分担があるかも知れない。何れにしても,省力,多収,高品質のトマト作りとなる。まだ解らない点もあるが,今後共追究して行くつもりである。